牛乳パック事件

 ガンの影響によりおしっこが出なくなり、体に水が溜まり腹部が膨らんできた父。
それによって、味覚や嗅覚もこれまでとはまったく別物になってきたそうです。
 
 
 6月中旬のこと。
ある日、父から母を通して「低脂肪の牛乳パックを2本買ってきてほしい」という伝言が。
これを聞いたとき、「あの細長いサイズのものを2本買ってこい」だということは分かっていました。
「食事のときにちょこっと飲みたいのだろう」と。


このサイズ

だからよくスーパーなどに置いてある200mlを買おうと思って、弟の病院に行った帰り、近所の生協に寄りました。
 
 
 が。
牛乳が置かれている棚をよくよく見てみると、低脂肪の牛乳は売られているものの、一番小さいサイズは500mlであとは1ℓサイズのみ。
見落としがないか隅から隅まで棚を見ましたが、見つけられなかったため自分は500mlを2本買うことにしました。
「少量飲むならコップに移せばいいだけだし、父が飲みきれないなら自分が飲めばいい」と。
そして家に戻り、「買ってきたよ」と父にその牛乳パックを見せると・・・父が怒り出しました。
「いやいや、そんな大きいサイズじゃなく・・・」と。
 
 
 父の話を聞くと、「もう朝から何も食事を取れなかったので、小さいサイズのものを飲みたかった」とのこと。
まぁ、この言い分は分かります。
そもそも自分も最初は細長いものを買うつもりでしたし。
でも、自分が行った生協には売っていなかったわけです。
そのため、やむなくこれを買ってきて、コップに移して少量飲んでもらおうと思ったのですが・・・。
「コップに移して飲めば・・・」と父に提案すると、父は、「その大きいパックを見ただけで、飲む気がなくなった」とますます怒り気味に。
 
 
 で・・・。
まぁこれが父が普通の状態であれば、自分もブチギレたでしょう。
「だったら自分で買いにいけばいいじゃん」と。
しかし、このときの父はこれまで述べてきたように、だいぶガンも進行してきて体力が落ちてきている状態。
そのため腹が立つ気持ちをグッと抑え、「ああ、分かった。ごめんね。明日また買いに行ってくるよ」と伝えると、父は「今日ほしい」と発言。
さすがにこれを聞いたときは、「だったらちょこっとコップに移して飲めよ!」と喉まで出かかりましたが、相手は病人です。
「こういう理不尽を言うこともある」とは思いながら怒りも感じつつこの後、スーパーやコンビニ6店舗を1時間かけて周り、低脂肪牛乳に200mlパックを探しました。
 
 
 しかし・・・。
これが実際に探してみると、本当に置かれていなくて・・・。
まぁその理由は至って簡単。
少量飲みたければ、1リットルを買ってもコップに移せばいいだけ。
父のような要求をしてくる方がおかしいわけで・・・。
とはいえ、これが「病気の恐ろしさ」というものなのだろうとも思いました。
感情の抑制が効かなくなるといいますか。
 
 
 1時間かけて店を回った結果、最後にいったヨークベニマルで「ザバス ミルクプロテイン 脂肪0 ミルク風味 200ml」というものを発見。
もうすっかり日が落ちて暗くなっていたことや、ほとんどの店で低脂肪の牛乳パック200mlが置かれていないことも分かったので、とりあえずこれを2本手にして家に帰りました。
もうこの時点では、これで父にまたキレられても構わないという悟りのような気持ちがありました(笑。
 
 
 で、家に帰ってみると・・・。
茶の間を開けて入るなり、父から謝罪が。
「せっかくお前が買ってきてくれたのに、申し訳なかった」と。
どうやら家で待っている間、父も自分で言っていることがおかしいと分かったようです。
まぁ自分も病気でおかしくなっていることは分かっているため、「ああ、別にいいよ」と受け流してその場は終わり、父に低脂肪の少量の牛乳パックはほとんどの店で売られていないことも説明。
これ以降は、牛乳パックで揉めるようなことはありませんでした。
 
 
次回につづく
 

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